第14話 たびび君、カンボジアのシェムリアップへ行く

REP

プノンペンの魅力に心打たれたたびびくん、今回はカンボジア内のシェムリアップにトリップします。
エキゾチックで可愛い猫に出会い、世界遺産でもある壮大なアンコールワットを訪れて、世界観も変わってしまうのでしょうか?

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目次

たびび君、またまたカンボジア?

カンボジア、プノンペンのマカラに別れを告げ、ひゅーんと体が飛んで行く感覚に身を任せた僕。

でも、思ったよりもうんと短い間隔で地面に降り立った気がしたので、僕は不思議に思いながら目を開けた。

そして、どこかさっきまでと似た雰囲気の別の場所に降り立っていたことに気付いたのだ。

「あれ!? 日本じゃない!? また違う国に来てるー!?」

僕が慌てて周囲を見回すと、ティーシャツやワンピースなどの涼しそうなラフな格好の者が多い。だが明らかに日本と違うのは、明るいオレンジ色をした、古びた布を纏った僧侶が時折歩いている点だろうか。
鞄までオレンジなのだから気合が入っている。

僕にはヘンテコリンに見えるし、実際に女性からは避けられているのか、距離を取られてしまっていた。あれじゃあモテないに決まってるよ。

「あの服を止めたら少しは女性からモテるだろうに」

僕が自分のことも忘れて、今も避けられてしまっている僧侶を同情を込めた目で眺めていると、後ろから「違うわよ」と軽やかな声がした。

「え?」
「僧侶は尊敬される存在よ。女性と触れてはいけないし、女性から話し掛けるのも厳禁。お布施の手渡しさえ駄目なんだから」
「どうしてだい?」
「それはね、修行を一から全部やり直すことに繋がるからよ。だから乗り物に乗る際も、席を譲ったりしないといけないの。妊婦さんと同じ様な専用席があるくらいよ」

僕が驚いて振り向くと、そこには紅葉の様な赤毛と、縞模様の尻尾。足先に白い足袋を履いた知的そうな雌猫が居た。

クリクリとした黄緑色の目は、僕を興味深そうに眺めている。

「僕には理解できないな。君みたいな美人に触れないなんて真っ平ごめんだよ」
「あら、精霊さんは口が上手いのね」
「精霊じゃないよ。僕は旅猫のたびびさ! わけあってこうして世界中を旅してるんだ! まぁ今回は僕の意志じゃないんだけどね。君は?」
「私はスマイ。この近くに住んでいるの。精霊じゃないのなら残念だわ」

スマイはとても残念そうに吐息を吐くので、僕は好奇心のままに聞いてみることにした。

「凄く残念そうだね。何か精霊に会いたい理由でもあったのかい?」
「ええ…。私はこの近くにあるアンコール・ワットを縄張りにしているの」
「アンコール・ワット?」
「まぁ! 知らないの?」

僕がオウム返しで呟くと、スマイは天変地異でも起こった様に目を丸く見開いた。

「カンボジアのシェムリアップといえば、アンコール・ワットはとても有名じゃない。人間が名付けた世界遺産にもなってるわよ」
「そうなんだ! 僕はここがカンボジアだったことも今知ったよ!」

スマイはそれを聞くと呆れを通り越して僕を心配してくる有り様だったが、何とか僕の事情を説明した。

「そう…。たびびは色々な国を回っているのね。世間知らずな所は精霊だからじゃなく?」
「僕は日本出身だってば!」
「残念。でも、精霊よりも同じ猫の方が頼みやすいから丁度いいかもしれないわ」
「何をだい?」

僕がスマイへと小首を傾げると、スマイは黄緑色の目を輝かせた。

「私の悩み相談にも乗ってくれる?」
「勿論さ!」
「実は私、クメール美術の神髄を学びたいの。アンコール・ワットには毎日行ってるんだけれど、人が多くて奥まで行けた試しがなくて…」
「なるほど。つまり、僕と入れ替わって半透明になりたいんだね」
「そうなの! でも一人は怖いから、たびびは隠れてついて来てくれないかしら?」
「お安い御用さ!」

僕がドンと胸を叩くとスマイは満面の笑みを浮かべた。
とっても可愛らしい笑みで、僕までスマイの毛色みたいに真っ赤になってしまった。

そうして、僕たちは早速アンコール・ワットに行ってみることになったんだ!

たびび君、アンコールワットを知る

頭をぶつけて入れ替わった僕達。

かわいい女の子の体に入れたことにちょっぴり興奮してた僕だけど、スマイは頭をぶつけて入れ替われた事にとても興奮していたんだ。

「やっぱり頭は神聖なのね!」

どういう意味か聞くと、カンボジアでは頭部は神聖なものとして扱われるらしい。だから、無闇に頭を撫でてはいけないそう。侮辱したことになるんだって!
日本とは違う考えやマナーの様で、スマイの頭を撫でなくてよかったと僕は胸を撫でおろしたよ。

そうして僕達はアンコール・ワットへと歩いたんだ。

アンコール・ワットは漢字の「口」みたいな感じで、周りを水に囲まれた遺跡なんだ!「環濠」っていうみたい。

遺跡に行くには両側の一本道からしか行けなくて、観光客でごった返していたよ。いろんな国から来ているみたいだったから、世界遺産として人気だっていうのも本当なんだなって思ったなぁ。

人の足と暑い日差しを避けながらグループガイドを探して歩いていると、スマイはわくわくとした顔で僕に解説した。

「途中までなら知ってるわ。たびびにも解説してあげるわね」
「ありがとう!」
「アンコール・ワットはシェムリアップ遺跡群の中でも最大の規模を誇る、クメール文化の栄華を遺す最高の建築物なの! 他にも素敵な遺跡はあるけど、一番人気ね! 大きさは面積 2 ㎢くらいで、800年くらい前に30年掛けて造られたそうだわ」
「途方も無さ過ぎて凄いことしか分からないや」
「あはは。そうね。アンコール・ワットのアンコールは、元はノコールっていうサンクスリット語源の『町・都城』を意味してるの。ワットの方は、『寺院』って意味だから、アンコール・ワットを意味で訳すとクメール語で『寺院によって造られた町』って意味になるわ!」

「お寺が町を作ったのかい!?」

日本で考えると全然よくわからない事態だ。でも、僧侶が尊敬されるカンボジアなら有り得ると僕は頷いた。

「カンボジアにある 5 つの塔は神々が住む山を表現していて、さっき通った堀は 6 つの大地の間に存在する 7 つの海を表してるわ。中央の塔を囲む回廊には、ヒンドゥー神話をもとにした『乳海撹拌』や、『ラーマーヤナ』にまつわる場面のレリーフがあるそうなの。……、
解説だけで見たことはないんだけどね」

さっきまで生き生きと饒舌に話してスマイだが、照れた様に舌先を出した。

僕はスマイの仕草にドキドキしつつ、「すぐに見れるよ」と急いで言うのだった。

「あ! たびび見て! あの旗を持っているガイド、今から出発するみたい! 行きましょ!」
「スマイ待ってってば~!」

半透明のスマイは興奮もあるのか、跳ぶように駆けて行く。

僕は慌てて見失わない様にスマイの後を追い掛けるのだった。

たびび君、アンコールワットを探検する

僕たちが橋を渡ると、ジャングルがお出迎えしてくれる。橋から遺跡までは真っ直ぐ原っぱみたいに見晴らしがいいから、段々大きく見えて来る遺跡に興奮する。

まっすぐな道以外はジャングルに囲まれているんだよ!

遠目からアンコール・ワットを最初に見た感想は、つくしみたい!だったけど、それを言うとスマイに怒られちゃいそうだから大人しくしていた。

ガイドに隠れてこっそりとついて行く。

石で作られた6m程の高さの門が3つあって、左右は『像の門』って言うみたい。

ゴツゴツしてて、日と雨に焼け焦げた具合は歴史と風情を感じさせる。

中に入ると早速僧侶と同じオレンジ色の服を着た仏像がお出迎えしてくれるんだ。手がいっぱい生えてたから、日本と同じ千手観音なのかな?

ずらっと横に並んだ白い柱は、回廊というよりは壁に感じられる。威容というか、迫力が凄いんだ。

僕が驚いていると、スマイが澄ました顔で答えた。

「アンコール・ワットは、三つの特徴があるの。一つ目がさっき見えた高い塔。2つ目が大きな階段。3つ目が長い回廊よ。中にあるデヴァダーは全員別人で、どれも妖艶な容姿で感動するのだそうよ」
「デヴァダーってどういう意味だい?」
「女神や女官、侍女や舞姫のことよ」
「へぇ~! スマイは本当物知りだねぇ!」
「ふふ」

僕が感心していると、スマイは嬉しそうに尻尾を揺らした。

回廊を抜けると、さっき遠目に見えたつくしが見えてくる。これは確かに写真映えするのだろうなと、ガイドが立ち止まって写真時間を作っているので頷いてしまった。

近付いて石の壁をよく見ると、歯を見せて笑う女の人が描かれている。服や装飾など、石を削って作られたとは思えない芸術性。これを800年前の人が作ったと思えば、感動もひとしおだ。

つくしの名前は『中央祠堂』というらしいので、ガイドの言うままについていく。

いよいよアンコール・ワットの中へ潜入だ!

暑い日差しからようやく影となる建物の中へ入る。僕達は第一回廊西面から入ったみたいなんだけど、ほかにも東西南北あるらしい。
幅は人が三人通れるほどかな。でも右側はまだ中庭に繋がってるから、等間隔にある白くて太い、四角い柱から日差しが入って来て狭い感じはないんだ。
それに、左側にはずらーーっとレリーフが掘られているんだよ!!
これには感動したなぁ。
兵士の行進や馬車に乗って戦う兵士、クメール人の生活などなど、全部違うものが何百も続いてるんだ!それも壁どころか天井まで!もう圧巻の一言だよ!

第二回廊は、三角屋根の通路って感じだったなぁ。

レリーフはなくなって柱だけになるんだけど、広くて開放的だよ。

色が剥げてしまってたからそれも風情あるけど、本来の色も見たかったなぁ。

スマイは、ここから先は行ったことがないようで、ガイドの話を一番最前列で聞きながら神経質に耳を動かしていた。
緊張で体の動きが止まらないらしい。
いよいよだと僕も次第に期待が高まるのだった。

たびび君と大事な経験

「たびび、一緒に来てね。ここから第三回廊みたい」
「順番待ちが凄そうだね。僕達だけで先にいこっか!」
「ええ!」

70度くらいの急勾配は猫でも大変だ。それでも、頑張って階段を登る。階段を登った先にある第三回廊はとっても狭いけど、あのつくしの頭がすぐそばに見える!
柵から下を見たら、とっても人が小さく見えた。

スマイは、何か感じるものがあったらしい。

何人もの人が通り過ぎ、日が傾き始めるまでずっと柵からの景色を眺めていた。

「たびび、ありがとう。もういいわ」
「何か分かったのかい」
「ええ。感じるものがあったわ」

スマイが微かに微笑むと、夕日が柵から差し込んだ。
夕日に照らされた半透明のスマイはとても幻想的で美しかったんだ。

僕たちは体を元に戻して階段を降りた。

その時、不意にご主人の匂いと声がした気がして僕は足を止めて周囲を見回した。

「ご主人…?」

すると突然ゴロゴロゴロゴロ!!!と音がして、雷と大雨が降り出したんだ!!

「スコールよ!! たびび早く行きましょ!!」
「う、うん!」

周囲の人々も傘を差したり、慌てて軒下へと逃げていく。

僕たちもドタバタに紛れてしまって、ご主人を探せなくなっちゃったんだ。

「たびび、今日はありがとね。お陰で悩みが晴れたもの」
「それは良かったよ!」
「私にとって、たびびは精霊ね」

僕が照れていると、スマイは僕へと近付いた。

そうして僕の頬へとチュッと触れる様なキスをしてくれたんだ。

何で僕の体は透けてるんだろうってとても後悔したよ!!

僕が目を白黒させて慌てていると、スマイはからかう様に微笑んで、そうして身軽に身を翻した。

「たびびまたね! 今度は奥まで私が解説してあげるわ!」
「うん…! スマイ! また!!」

悲しくならないよう、僕は精一杯手と尻尾を振ったんだよ。

カンボジアにさよならを告げるたびび君

僕の体が空へと引っ張られ始める。

あっという間の1日だったけど、いつもよりも濃厚に感じられた1日でもあった。

カンボジアにはまだまだ魅力があるに違いない。

僕が空から見下ろすと、先程までのアンコール・ワットや遠くのプノンペンまで見えた気がした。

ひゅーんと体が海を越える。

そうして戻ってきた日本で、僕は久々に会えたクロに泣きつくのであった。

「クロ―! なんで僕の体は半透明だったのー!?」
「お前の体は今俺に抱き着いてるだろ。暑苦しいから離れてくれ。相変わらず寝起きは情緒不安定だな」
「うう、クロが冷たいよーー」

僕の初めての淡い恋とカンボジアの長旅は、こうして終わったのである。

14国目、たびび君、カンボジアのシェムリアップへ行く

おしまい

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