第10話 たびび君、ハワイ ホノルルに行く

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記念すべき10国目に突入するたびび君。
今回はグアムに引き続き日本人にも大人気のリゾート、常夏のハワイにやってきました。
なんと、3姉妹のロコキャットに出会います。ハワイの魅力に魅せられ、彼女たちのお悩みはいかに!?

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目次

たびび君、3姉妹に巻き込まれる

「ここどこーー!!?」

いつかと同じ様に叫ぶ僕の近くで、看板がパタパタと風に揺れる。

『ハワイ ホノルルへようこそ!!』

「ハワイだって!? ご主人ー! クロー!?」

テンパる僕がにゃぁー!と叫んでいると、僕の声に気付いた三匹の雌猫たちが驚いた様子で動きを止めた。

腰に巻かれた草は、フラフラと揺れてから彼女達の毛並みに沿って止まる。

踊る人間たちの真似をして踊っていた雌猫たちは、高い声音で鳴きながら僕に近付いて来た。

「こちらで何か声が聞こえましたわね」
「気のせいじゃないのかなあ?」
「どっちでもいいから早く覗くわよ!」

ガサゴソと鳴る音に僕がびっくりしていると、草場の影から顔を覗かせた彼女達と目が合う。

お互いパチクリと瞬き。

三つの顔がお団子みたいに連なって覗いているのは何だか変な感じだ。

白に茶色混じりの顔立ちは、模様こそ違うけれど三匹ともとても似ている。一匹だけ顔の左側に茶色模様があって、二匹は右側に茶色模様があった。

「あら、雄猫がいますわね」
「何だか半透明じゃないのかなあ?」
「どうでもいいから話し掛けるわよ!」

僕が三匹の勢いにたじろいでいると、彼女達は僕を取り囲んでクルクルと周りを回り始めた。

「あなた、見掛けない顔ですわね」
「ハワイ出身じゃないのかなあ?」
「どうでもいいから聞いた方が早いわよ!」

僕が尻尾を体に付けて縮こまっていると、一番最初にいつも声を出す猫が話し掛けてきた。次いで、それぞれ自己紹介してくれる。

「私の名前はねあら。三姉妹の長女ですわ」
「私の名前はまかな。三姉妹の次女かなあ」
「あたしは、のあ! 三姉妹の三女よ!」
「僕の名前はたびび! 日本から来た旅猫さ! 実は―――」

僕が日本から来たこと。ご主人を探していること。お悩みごとを幾つも解決してきたこと。

色々なことを話すと三姉妹とはすっかり打ち解けることが出来た。

三姉妹は近くで踊っていた人間の三姉妹にそれぞれ飼われているらしい。

今も腰や胸に草を巻いて、手首や髪を軽やかに靡かせながらフラフラと踊る人間達。

僕が彼女達を眺めていると、三姉妹は溜め息を吐く様に僕に悩みを吐き出した。

たびび君と3人寄れば姦しい?

「実は今フラダンスの練習をしているのですわ」
「でも私たち息が合ってないのかなあ」
「どうでもいいから練習するわよ!」

苛立った様に後ろ足で地面を踏む三女ののあ。どうやら一番短気らしい。

僕は三姉妹のフラダンスを見せてもらうことにした。

「ねえ、良ければ踊っているところを見せてくれないかな?」

三姉妹は顔を見合わせると、フラダンスの音楽に合わせて軽やかに腰を動かし始めた。

長女のねあらは、おっとりとした上品な腰振り。
次女のまかなは、マイペースな独特の動き。
三女ののあは、元気でアクロバティックな踊り。

どうやら三匹が三匹共に性格が表れている様子。

「うーん。何だかバラバラだなぁ」

僕が思わず呟くと、三姉妹とも踊りを止めて肩を落としてしまった。

「実は明日の夜に披露しないといけないのですわ」
「このままで大丈夫なのかなあ」
「どうでもいいけど練習するしかないじゃない!」
「明日の夜に大会でもあるのかい?」

僕が彼女達に聞くと、彼女達は僕の後ろを指差した。

僕達が居た茂みの少し先には、グアムの様な白い砂浜と、スカイブルーの海が覗く。

その近くには見上げる程の高さの超巨大なビル!!

「あのヒルトン・ハワイアン・ビレッジビーチリゾートでは、毎週金曜日の夜に花火が打ち上げられるのですわ」
「ヒルトン・ハワイアン・ビレッジは、ホテルの中でも一際広大な敷地を誇るかなあ」
「あそこでフラダンスを踊るけど、どっちにしろフラダンスの見せ場まであと一日しかないわ!」

どうやら話によると、ホテルではフラダンスを楽しめる催し物があるらしい。三姉妹は人間達の踊りや花火に混じって、猫のフラダンスを猫たちに見せるそうだ。

人間達のショーは、フラダンス単独のショーというよりも、他のダンス等も一緒に楽しむポリネシアンショーといった内容らしい。つまり、フラダンスを中心としてウクレレやシンガーのパフォーマンス、ファイヤーダンスを織り交ぜたハワイらしいショーが見られると。

うん、聞いてるだけで面白そうだ。

チケットを買うと、プールサイドのビーチチェアでゆっくりと楽しむことができるけど、チケットを購入せず会場の周りで立ち見するお客さんもたくさんいるんだって。
三姉妹も音楽を借りて踊るから、似たようなものなのかな。

スーパープールで行われるハワイアンショーの後には、有名な『ヒルトンの花火』が打ち上がるらしい。それがさっきから三姉妹が言っていた花火のことみたい。夜を最高潮に盛り上げてくれるんだって。

夜の19時から45分間の特別な時間。

僕は三姉妹から身振り手振り、腰振りで話を聞いてるだけで、明日の夜がとても楽しみになったんだ。

「僕も出来ることは手伝うよ!」

フラダンスが成功する様に勢い込んで僕が言うと、三姉妹は驚いた様に目を丸くして、クスクスと可愛らしく笑いあったのだった。

たびび君とおいしいご飯

「帰るわよー! 猫ちゃん達、どこかしらー?」

人間達が声を出して呼ぶと、三姉妹はいそいそと腰に巻いた草を外して猫撫で声で走り寄った。

僕も半透明のまま三姉妹の後を追う。

三姉妹と一緒に車に乗りこんだ僕は、人間達の話に耳を傾けた。

「予約取ってるから『タウン』行こっか~」
「え~! 予約取れたんだ~! 初めて~! 楽しみ~!」
「私、前に行ったことあるけど最高だよー」

三姉妹の飼い主も三姉妹に似て賑やかだ。それとも三姉妹の方が飼い主に似たのだろうか。

赤いスポーツカーは上の屋根が無いので快適だ。風と光を浴びながら道路を爽快に走り抜ける。

ワイキキの東から山側へ向かうと、地元の方々に人気のグルメが集まる街『カイムキ』が広がっているらしい。
中でも一段と人気を集めるオーガニックレストランがその『タウン』という店だそうだ。

車が走っている間、猫の三姉妹は踊り疲れたのかスヤスヤと眠っている。

静かに揃って丸まっている様子を見ると、本当に似ていると思う。

車の鏡に映っている様子を見ながら僕がそう考えていると、車が止まった。どうやら目的のお店に辿り着いたらしい。

出入口も中もとても混雑していたが、予約を取っていたからか僕達はすんなりと中に入れた。まぁ僕は着いていっただけなんだけどね。

オシャレな内装だけど落ち着いてて、隠れ家レストランや一軒家レストランって感じ。メニューはヘルシーそうな野菜料理から、ガッツリのお肉料理まで多種多様かな。ハワイでも地産地消って気にしてるみたいで、説明を聞いていると何だか笑っちゃった。人間も猫と同じで、国が違っても似るもんなんだなぁ。

メニュー表記は全て英語、会話も英会話のみで日本人は全然居なかったや。でも肌の色が全く違う人間でも身振り手振りで注文していたよ。

ねあら達のご飯を少し貰ったんだけど、全体的に薄味だったなぁ。でもそれが逆に素材の味を満喫させて美味しく食べれたよ。またご主人と食べに来たいなぁ。

「そろそろ帰りましょうか」
「ええ。明日も同じ場所で練習ね」
「そうね」

人間達が席を立ったので、僕も一緒について行く。

「僕はご主人をもう少し探してみるよ。また明日同じ場所でね」

目印のビルはとても大きいから、迷子になりそうもない。

僕は三姉妹に別れを告げると、ご主人を探して暫く歩き回るのだった。

たびび君、フラダンスを見る

ご主人を見付けることが出来なかった僕だけど、落ち込んではいられない。

三姉妹のフラダンスを見て頑張って指示するのだが、中々息の合ったフラダンスにすることが出来ない。

「困ったわね」
「もう無理なのかなあ」
「ちょっと休憩よ!」

いつも前向きな三女ののあまで休憩を入れるのだからよっぽどである。

僕も一緒になって頭を悩ませていると、不意にキキーッ!という車が止まる音がした。

どうしたのだろうと覗くと、あわや交通事故になり掛けたらしい。

危ないなぁと車と人間達の様子を見ていると、僕の頭にピキーン!と稲妻が走った。

「そうだ! 鏡だ!!」

三姉妹が驚いて顔を上げる中、僕は昨日乗った真っ赤なスポーツカーの前まで走ってその綺麗な車体を指差した。

「ねあら、まかな、のあ! 鏡を見ながら練習したら、もっと息が合ったフラダンスが出来るに違いないよ!」

僕が勢い込んで言うと、三姉妹はスポーツカーの前まで行って、鏡に映った自分達の顔や体と向き合う。

そうして恐る恐る前足を上げたり、腰を振ったりすると、次第に真剣に練習を始めた。

先程までは別の姉妹に注文を付けていた声が、段々と無言になっていく。

やがて太陽が落ち、夕日がビーチに沈み始めた頃、三姉妹のどれもに似ていて、どれとも違う一つのフラダンスが出来上がっていた。

それはまるで一つの波の様に踊っていて、見ていてとても美しい。

僕が息を呑んでいると、人間達の声が聞こえた。

「さあ! ハワイアンショーが始まるわ! 行くわよ!!」

たびび君、花火を見る

ステージの上で黄色と緑の腰蓑を巻いた人間の男女が楽しそうに踊る。上半身は笑顔で微動だにしないまま腰だけ動かすからか、女性まで腹筋が割れていてムキムキだ。

頭と両腕に巻かれた黄色い房も、リズミカルでアップテンポな太鼓の音に合わせてポンポコ跳ねる。

棒状のものを持ってクルクルと回ったり、叫ぶ様に踊ったかと思えば、しっとりと謳ったり。火を振り回していたりもあったなぁ。

どんな意味か分からない歌でも、聞いていて僕まで体を思わず動かしてしまう。

そんな素敵なフラダンスショーの近くで、三姉妹の猫たちも軽やかに歌って踊る。

星が見える夜空の下で、ライトと火に照らされたショーは圧巻でロマンティックの一言。

三姉妹がうっとりする程息の合った踊りを終えた後、観客の猫たちはシン……として――

最後は割れんばかりの歓声をあげた。

ドーン! ドドーン!! と花火の音が鳴る。

「おおー。これが『ヒルトンの花火』か。たびびにも見せたかったなぁ」

ドーン! ドドーン!! という音の合間に、『ヒルトンの花火』という言葉が何処からか聞こえた。

僕は上空を見上げて、零れ堕ちそうなほど目を開けて花火を堪能する。

夜空いっぱいに咲くその雄姿は、ハワイ全土からでも見えるんじゃないかな?なんて思ったり。

みんなが上を見てうっとりするものだから、僕も三姉妹と一緒に和やかな時間を過ごしたんだ。

その夜は僕の中で最高の夜だったとだけ言っとくよ。

いつかご主人と一緒に見たいなぁ。

翌朝、僕は三姉妹の前にお行儀よく座っていた。

「たびび、感謝してるわ。これは私からのお礼よ」
「またいつでも遊びに来てもいいかなあ?」
「どっちでもいいけど、絶対顔出しなさいよね!」

三姉妹がそう言って僕のほっぺたにチュッと軽いキスをする。

「うわっ、わぁ!」

半透明だから感触がないけど、僕は尻尾の先まで毛を膨らませて飛び上がった。

僕が慌てていると、クスクスと笑う声がする。

感触が無くて残念な様な、揶揄われて弄ばれた様な複雑な男心だ。

「また、遊びに来るね!」
「ええ、楽しみにしてるわ」
「待ってるかなあ」
「どっちでもいいけど、早く来なさいよね!」

三姉妹が息の合った動きで手を振る中、僕はひゅーんとハワイを飛び、海を越え、どこかに吸い込まれる様に着地する。

「ううーん……」
「たびび! お前、また寝過ぎだろ!」
「クロ…? クローー!! 会いたかったよーー!!」
「起きたら今度は赤ん坊かよ! しっかりしろ!!」

半泣きでやっと会えた懐かしいクロに抱き着くのだが、お邪魔虫の様に引き剥がされてしまう。

「で? 今度はどんな夢でも見てたんだ」
「うーんと。ナマコになったり、美猫三姉妹と一緒にフラダンスする夢?」
「なんだそりゃ。夢だな」

呆れた顔で溜め息を吐くクロに、全部本当なんだけどなぁと思いながら、キャットフードを貪るたびび君であった。

【10国目 たびび君、ハワイ ホノルルにいく】

おしまい

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