第13話 たびび君、カンボジアのプノンペンへ行く

PNH

前回はお洒落で洗練された花の都、パリを訪れたたびびくん。
今回は「東洋のパリ」と称されるプノンペンへトリップします。
ご主人を探しながら、どんな出会いや体験、お悩み解決が待っているのでしょうか?

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目次

たびび君、痛みに飛び上がる?

「いたい!!!」
「たびびは大袈裟だなぁ」
「鼻先をデコピンだなんて、爪をヤスリで磨かれるのと同じくらいの苦痛だよ!」

僕は鼻先をデコピンされた拍子に飛び上がって鼻を押さえた。
そりゃぁ僕が猫じゃらしのオモチャを勢い余って壊してしまったとはいえ、受付のお姉さんもとんだ仕打ちである。

僕がスンスンと鼻を鳴らして嘆いていると、横から僕を見て笑っていたクロが隣に座った。

「知ってるかたびび、日本では人間が猫の皮を剥いじまって、楽器にしちまう所があるんだとよ。それに比べちゃ、お前さんの痛みなんて可愛いもんだろ」
「ええっ!? そんなこと本当にあるのかい!?」

ニヤニヤと僕を怖がらせる様に低い声音で喋るクロ。
僕は思わずゾッとして背中から尻尾の先まで毛が逆立ってしまう。

僕はご主人に拾われて大層幸せ者に違いない。

僕が落ち着かなさそうにお尻を動かしていると、クロは満足した様にゲラゲラと笑って行ってしまった。

僕を怖がらせて楽しむ親友は、中々の意地悪者だ。

クロの話を思い出して一人ぶるりと震えた僕は、ご主人に会いたくなってすぐさま自分の寝床へと向かった。

「えーっと、ご主人はカンボジアのプノンペンに行くって言ってたな。ようし、ご主人待っててね!」

僕はすぐにご主人に会えるに違いないと、勢い込んで目を瞑るのであった。

たびび君、相談される

いつもの様にひゅーんと海を越えて飛んでいく僕。

僕が目を開けると、燦燦とした太陽と、「うわ!」という若い雄猫の声が聞こえた。

振り向くと尻尾が狸の様に太い、白と緑のブチ模様の雄猫が驚いた様子で僕をみている。

「君、さっき空から降ってきたのかい? いやいや、凄いなぁ」
「初めまして。僕は旅猫のたびびさ。君は?」
「ぼくはマカラ。此処が僕の縄張りだよ」

そう言ってマカラは僕の匂いを興味深そうに嗅ごうとした。生憎と僕は半透明だから触れないし、匂いも無いんだけどね。

ひとしきり僕を観察したマカラに、僕は事情を説明した。ご主人を探していること。手伝ってもらう代わりに、マカラの悩みを叶えるということ。

僕の話を聞いたマカラは、僕がフランスのパリにも行ったという話を聞くと、意を決した様に切り出した。

「そうか。たびびは本場のフランスにも行ったんだな」
「うん。そうだよ。それがどうかしたのかい?」
「実は、此処、カンボジアのプノンペンにも異名があるんだ」
「へぇ! フランスのパリは花の都だったよね。ここなら…、赤い都とか?」

僕は目に入った建物が印象的だったので、そのまま声に出して言ってみた。

僕の目の前には整備された中庭の奥に、朱色の見上げる様な建物が聳え立っている。
お地蔵さんも居るし、寺院みたいにも見えるけど階段もあるから、何とも言えない和洋折衷さで例えようがない建物だ。

僕が興味深く建物を見つめていると、マカラは溜め息を吐きながら首を振った。

「いや。実はプノンペンの異名は”東洋のパリ”っていうんだ。ぼくは本場のパリに行ったことがない。だから本当に東洋のパリと言えるに相応しいか判断がつかないんだ」

そうしてマカラは勢いよく僕へと掴みかからんばかりに顔を近付けた。

「なぁたびび! パリに行ったことがある君に、ぜひこのプノンペンが東洋のパリと呼ぶに相応しいか判断して欲しいんだ!」

僕はマカラの相談に面食らってしまったが、お安い御用だとドンと胸を叩いた。

「任せてマカラ!」
「ありがとう! これで長年の悩みが晴れるよ! なら、早速街を案内しよう!」
「だったら、僕はあれを見てみたいな」

目を輝かせるマカラに、僕は先程から気になっていた建物を示して早速案内を頼むのであった。

たびび君、プノンペン国立博物館へ行く

「プノンペン国立博物館には、クメール王朝の貴重な歴史的資料が展示されているんだ。アンコールワットから発掘された、クメール様式の芸術品も一部見れるよ。国宝級の彫刻も展示されてるし、時代ごとにカンボジアの歴史を追って見学できるから、とても分かりやすくて勉強になるんだ」

へぇ~っと僕は台の上に無造作に置かれているヘンテコな顔の像たちを見上げる。

顔だけしかないもの、土偶みたいなもの、灰色の羽を広げた人間。どれも物珍しいものばかりだ。

「あまり大きくはないから、ゆっくりとみて回っても1時間もあれば一周できるよ。ガイド音声付きなら5時間かな。だからたびびのご主人ももしかしたら居るかもしれないな」
「うーん。ご主人の匂いはしないなぁ」

マカラの話を聞いて匂いを探すけど、ご主人の匂いは全然しない。

「そうか…。一応人間の入場料は大人10ドルだから高いのかもね。これにヘッドホンでの音声ガイドをつけるとさらに5ドル。高く思えるけど、知識がないならガイドは絶対付けるべきだよ。人間がいっつも言ってるからそれは間違いない。歴史好きには堪らないんだろうね。どうやらこんなに間近で所狭しと歴史的資料が見れる場所は無いそうだから」

マカラは少し鼻を膨らませた。

マカラは縄張りに通い慣れているのか、ガイドいらずの上手な解説だ。

「歴史的にインドや中国などの大陸文化と宗教、さらにはインドシナ地域と広範囲に影響を受けて成長してきたカンボジアの足跡を感じれるよ。併設のカフェもほら、あそこにあるから休憩できるんだ」
「へぇ! 涼しそうだね。此処は少し暑いや」
「扇風機しか無いから蒸し暑いんだよね。中庭なら風通りもよくて涼しいよ!」

僕は跳ねる様に中庭の草原へと進んだマカラを追って、像たちに見送られながら次の案内へと従うのだった。

「此処からはフランスの植民地時代だった名残の場所を案内するね」
「本当だ。建物が一気に西洋風になったね」

僕の視線の先では、ヤシの木や熱帯林の似合う建物から、レンガ畳や真っ白い漆喰の似合う街並みへと変わっている。

「どうだいたびび! パリに似てるかい!?」
「そうだねぇ…」

僕は答えを保留にして、その後も色々な場所を見て回った。

銀色に輝く豪華な仏塔!シルバーパゴダ!
パゴダは仏塔の事を指すんだって。だから、シルバーパゴダはその名の通り「銀の仏塔」という意味!
床には 5000 枚以上の銀のタイルが敷き詰められていて、寺院内部にはダイヤモンドやエメラルドを散りばめた豪華絢爛な仏像などが納められているんだ。名前の通り輝かしい場所だったよ!

それから黄金に輝くカンボジア伝統の王宮!
入場してすぐに目に入るのが、「即位殿」の黄金色! プノンペンのシンボルでそこが王宮なんだ。人間の国王の誕生日とか重要な儀式が執り行われる場所らしいんだけど、普段は一般公開されてるそうだよ。観光客もいっぱい居たなぁ。
でも王宮に入るときは膝が見える格好やノースリーヴ、帽子などは禁止されてるみたいだから、マナーとやらがあるみたいだね。

僕はプノンペン中の色々なところをマカラに案内して貰ったんだ。

残念ながらご主人には会えなかったんだけど……。

すっかり日が落ちるまで歩き回った僕らは腹ペコになって、途中で腰を下ろした。

するとマカラは鼻先を動かしながら、僕の方を見てこう言ったんだ。

「ねぇたびび! 君にラパウソンクチャーを食べさせてあげるよ!」ってね!

たびび君、ラパウソンクチャーを食べる

「ラパウソンクチャーって何だい?」

僕が耳慣れない言葉に小首を傾げていると、マカラはこっちだよと細い路地を歩き出した。

プノンペンは面白い。パリみたいな場所もあれば、自転車やバイクが雑然と通るビル群もある。寺院やヤシの木も生えていれば、2020年完成の開発中の建物もある。

僕が迷わないようにマカラの後を必死で追っていると、マカラが一つの店で立ち止まった。

日に焼けた肌のおばさんが、慣れた様子でお皿の上に何かを乗せて渡してくれる。

僕は恐る恐るマカラの勧めに従って鼻先を近付けた。

「これは…、かぼちゃかい?」
「そうさ! くり抜いたカボチャの中にココナッツプリンを入れてるんだ! カボチャの風味とココナッツプリンのまろやかな甘さは、蒸し暑いカンボジアの夜に最高なんだよ」
「へぇ! 日本のかぼちゃプリンといえば、かぼちゃ味で見た目はプリンが一般的だけど…。これは見た目も華やかだし面白いねぇ!」

早速マカラに身体を借りて食べさせて貰ったけれど、疲れた体に沁み渡る自然な甘さなんだ。お腹にも結構くるんだけど、オマケで付けてくれたアイスもぺろりと食べれてしまったよ。

僕がお腹を押さえていると、マカラが笑いながら口の周りをペロリと舐めた。

「たびび、口直しにもう一品どうだい?」
「ええ、もう入らないよ」
「大丈夫、美味しいスープだからさ」

僕がお腹を押さえながらマカラに無理やり先導されていると、マカラは一つのスープを用意してくれた。

「スパイシーで酸味がクセになるカンボジアの代表的家庭料理さ。名前はソムロームチュー!」
「ソムロームチューってどういう意味なんだい?」
「ソムローがスープ、ムチューが酸っぱいという意味で、酸っぱいスープという料理名になるよ。肉や魚介類、それからたっぷりの野菜や野草を使った具沢山スープで、レモングラスやショウガで酸味を加えてるんだ。にんにくもふんだんに使うから、スパイシーで旨味もたっぷりに仕上がってるよ」

ぐつぐつと煮込まれた野菜やお肉が、スープの湯気から顔を覗かせている。

僕はさっきまでお腹いっぱいだったことも忘れ、舌鼓を打つのだった。

東洋のパリ?

カンボジアのプノンペンを旅して分かったことがある。

プノンペンには楽しい場所だけじゃなくて、ポルポト政権時代に、多くの人間が収容されて拷問を受けてきた施設をそのまま利用した博物館もあるんだってこと。

僕たち猫には拷問なんて考えが微塵もないからゾッとするけど、人間は猫も楽器にしてしまう恐ろしい生き物だから、そういう怖い歴史もあるのだろう。

鼻先をデコピンされただけでも痛かったから、縄張り争い以外の大量虐殺なんて、僕には無駄に思える。

でもそういった統治下を越えて、フランスの統治下も超えてきたカンボジアを見て僕は思ったんだ。

「ねぇたびび、見て回った感想はどうだい!」
「うん! すっごく楽しかったよ!! 食べた料理も初めてで美味しかったし、建物も、和風でも洋風でも無くてカンボジアにしかないものだと思う!」
「そうか! なら、東洋のパリと呼ぶに相応しいかな!」

マカラは喜びに顔を輝かせたけど、僕はマカラの前で首を振った。

「いや、違うよマカラ」
「え? たびび?」

途端に表情が曇るマカラ。だけど、僕は悪い意味でなく自信を持って宣言した。

「僕はパリにも行ったことがある。確かにパリに似た場所もプノンペンにはいっぱいあったよ」
「うん…」
「でも、何て言うか、もっとすごいと思ったんだ! 東洋のパリどころか、インドや中国とか、歴史を越えたり混じったりしてカンボジアは出来たんでしょ?」
「うん」
「勿論パリは素敵なところさ! だけど、プノンペンの和洋折衷織り交ぜて、まだまだ開発したり発展途上だっていう人の勢いは、何かの代わりじゃない魅力だったんだよ!」

僕は白と緑のブチ模様のマカラを向いて、力強く言った。

「プノンペンは東洋のパリじゃない! いわば!」
「いわば?」

マカラがドキドキと期待した目で僕を見るので、僕は鼻を膨らませた。

「かぼちゃプリンの都さ!」
「それは嫌だよたびび!!!」
「ええー」

結構自信満々だったのだが、言った瞬間にマカラに却下されてしまった。

残念だなぁ。

でも、そうして打ち解けた僕達は、その後一緒にご主人を探したり、またプノンペンを案内してもらって楽しんだ。

ご主人を見付けることは出来なかったけど、それでもマカラの悩みが晴れたことに僕は満足してたんだ。

それに、クロに聞かされた話よりももっと怖い人間の拷問話とか聞いてたら、猫の楽器なんて怖くなくなっちゃったしね。

僕はマカラに手を振ると、すぅーっと体が引っ張られるままに任せる。

マカラが僕を見上げながら、大きな声で太い尻尾を振った。

「たびびー!! また一緒に遊ぼうなー!!」
「うん!! マカラー!! また会おうねー!!」

ひゅーんと引っ張られる感覚に目を瞑りながら、僕はカンボジアのプノンペンを飛び立った。

さぁ、ご主人に会いに行くぞー!!

【13国目、たびび君、カンボジアのプノンペンへ行く】

おわり?

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